健康な脳の働きを支えるアストロサイト

郷間葵、鶴亀里咲、高見沢歩、中園翔子、片桐沙弥、毛内拡

 脳細胞であるグリア細胞の一種、アストロサイトは単に神経細胞(ニューロン)の隙間を埋め支持を行う「膠」と見なされ、その重要性は見過ごされてきた。その理由の一つとして、アストロサイトはニューロンと異なり膜電位の変動が小さく、電気的に測定することが困難だったからである。一方、アストロサイトの細胞内カルシウムイオン濃度がダイナミックに上昇・伝播することが発見されて以来、アストロサイトとニューロンの相互作用への関心が高まりつつある。さらに、アストロサイトの働きが脳の情報処理に関与している傍証が見つかりつつある。
 本研究では、アストロサイトが健康な脳を支え、守る仕組みを解き明かし、高次脳機能に関与している可能性について検討する。
 アストロサイトは細胞外カリウムイオン濃度の維持、グルタミン酸の再度取り込みとリサイクル、ニューロンへのエネルギー供給を行うことでニューラルネットワークの調節を行っている。それだけでなく、細胞内カルシウムイオン濃度上昇に伴ってグリア伝達物質と呼ばれる液性因子を放出することによってシナプス伝達効率を変化させるなど、脳の情報伝達にかかわっている可能性が出てきた。この働きに異常が起こるとアルツハイマー病などの疾患に繋がることが報告されている。このことから高次脳機能はニューロンだけでなくアストロサイトとの相互作用によって成り立っている可能性が示唆される。