研究紹介
トポロジーの一分野である結び目理論と3次元多様体論の研究と、その高分子科学、超分子化学、材料科学への応用の研究を行っています。応用面では、DNAなどのポリマーのトポロジーの研究や材料開発に興味があります。論文の詳しい情報は論文のページか、Google Scholarで。
プレスリリース
研究に関する記者発表資料です。
- ペプチド鎖が精密に編み込まれたナノカプセルの合成に初成功 ~24交点の絡まりトポロジーをもつ球殻ウイルス状分子構造~ (Nature Communications, 2019年12月)
- DNA絡み目解消の数学を用いた解明 -結び目理論の組換え酵素研究への応用- (PNAS, 2013年11月)
結び目と絡み目の局所変形の研究とそのDNAの研究への応用
「2つの結び目や絡み目が与えられたとき、交差交換やバンド手術などの局所変形で移りあえるか?」という問題を扱うものである。この研究は、結び目のデーン手術の分類を念頭に始めたが、最近はDNAやポリマーの研究への応用に基づいて行うことも多い。
[1]において、T(2,2p)-トーラス絡み目を自明な結び目に変形するバンド手術の研究を行い、デーン手術の結果を得た。その後、T(2,n)-トーラス結び目、絡み目等の間のバンド手術の分類[2](および[3,4])、ファイバー絡み目間の交差交換とバンド手術の分類[5]を行った。 これらの研究はDNAの組換え酵素の研究に応用がある。DNA組換え酵素の作用はDNAのトポロジーを変化させるものがあり、組換えはバンド手術によってモデル化されるからである。上記で得られた結果を応用し、組換え酵素がDNA絡み目を解く様子を特徴付けた[2,6]がある。[2]の研究について、プレスリリースを発行した。最近では、渦の作る結び目や絡み目の研究に[2,6]の結果が応用されている。
- Dehn surgeries on strongly invertible knots which yield lens spaces, PAMS (2000)
- FtsK-dependent XerCD-dif recombination unlinks replication catenanes in a stepwise manner, PNAS (2013)
- Rational tangle surgery and Xer recombination on catenanes, AGT (2012)
- Site-specific recombination modeled as a band surgery: Applications to Xer recombination, in “Discrete and Topological Models in Molecular Biology” (2014)
- Band surgeries and crossing changes between fibered links, JLMS (2016)
- Pathways of DNA unlinking: a story of stepwise simplification, Scientific Reports (2017)
結び目のデーン手術の研究
双曲結び目の例外デーン手術の特徴付けの研究を中心に行ってきた。強可逆結び目のデーン手術でレンズ空間が得られる場合の研究[1]、対称結び目のケーブリング予想の解決[2]、双曲結び目の例外デーン手術のスロープと外部空間に埋め込まれた曲面の境界スロープとの関連付けの研究[3]、プレッツェル結び目の例外デーン手術の特徴付け[4]、A-多項式の研究[5]、交代結び目の境界スロープの研究[6]、2成分絡み目のデーン手術の研究[7]、デーン手術を用いたFoxの埋め込み定理の精密化[8]等の成果を得ている。
- Dehn surgeries on strongly invertible knots which yield lens spaces, PAMS (2000)
- Symmetric knots satisfy the cabling conjecture, Math. Proc. Camb. Phil. Soc (1998)
- Exceptional surgery and boundary slopes, OJM (2006)
- Finite surgeries on three-tangle pretzel knots, AGT (2009)
- Tangle sums and factorization of A-polynomials, New York J. Math. (2015)
- Alternating knots with large boundary slope diameter, Contemporary Math. (2020)
- On non-simple reflexive links, JKTR (2002)
- Dehn surgery and Seifert surface system, Ann. Sc. Norm. Super. Pisa Cl. Sci. (2017)
3次元多様体の分解とその材料科学への応用
3次元多様体の分解の研究、特にHeegaard分解の拡張を行った。3次元多様体と1次元部分多様体の対の分解の一連の研究[1,2,3,4]、3次元多様体をn個のハンドル体に分解する研究[5]を行っている。
3次元多様体を3つのハンドル体に分解するものとして近年定義された3次元多様体のtrisectionがあるが、ハンドル体分解はその一般化である。[5]では、このハンドル体分解の応用の研究を行っている。これは3次元トーラスのハンドル体分割を分類することにより、高分子材料の設計を行うというものである。
- Thin position of a pair (3-manifold, 1-submanifold), Pacific J. Math. (2000)
- Heegaard splittings of the trivial knot, JKTR (1998)
- Heegaard splittings of trivial arcs in compression bodies, JKTR (2001)
- Heegaard splittings of the pair of the solid torus and the core loop, Rev. Mat. Complut. (2001)
- Handlebody decompositions of 3-manifolds and polycontinuous patterns, Proc. R. Soc. A (2022)
交代絡み目の研究とその応用
トーラス上の交代絡み目[1]や交代タングルに関する研究とその応用[2,3,4,5]を行った。特に、タングルや絡み目の補空間の曲面の研究、交代タングルから構成される結び目のデーン手術の研究などを行った。また、交代結び目について、境界スロープと交点数との関係の研究[6]を行っている。
[7,8]において、ペプチドと金属イオンから構成された分子の作る交代多面体絡み目の分類と特徴付けを行った。この超分子は世界で最も大きな交点数(24交点)を持つものであり、プレスリリースを発行した。[9]では、交代多面体絡み目の分類の研究を行っている。- Incompressibility of closed surfaces in toroidally alternating link complements, OJM (1998)
- Parallelism of two strings in alternating tangles, JKTR (1998)
- On tunnel number one alternating knots and links, J. Math. Sci. Univ. Tokyo (1998)
- Hyperbolicity and boundary-irreducibility of alternating tangles, Top. Appl. (1999)
- Essential laminations and branched surfaces in the exteriors of links, Japan J. Math. (2005)
- Alternating knots with large boundary slope diameter, Contemporary Math (2020)
- Metal-peptide rings form highly entangled topologically inequivalent frameworks with the same ring- and crossing-numbers, Nature Commun. (2019)
- A metal-peptide capsule by multiple ring threading, Nature Commun. (2019)
- On the classification of polyhedral links, Symmetry (2022)
格子結び目の研究とその応用
3次元単純立方格子の辺で構成される結び目の研究[1,2,3]とその応用[4]を行った。結び目が与えられたときに、最小の本数の辺で構成する方法や、実現する領域を指定した場合の結び目の特徴付けなどを行っている。この研究の背景には、DNAやタンパク質の作る結び目の特徴付けがある。
格子結び目の統計力学的エントロピーに関する著名な予想「全ての結び目は同じ指数関数的増大度をもつ」がある。これは十分長いひもに対し、各結び目の出現確率は等しいことに対応する。この予想の部分的な解決を理論的には世界で初めて得た[5]。
- Bounds for the minimum step number of knots in the simple cubic lattice, J Phys A (2009)
- Bounds for the minimum step number of knots confined to slabs in the simple cubic lattice, J Phys A (2012)
- Bounds for the minimum step number of knots confined to tubes in the simple cubic lattice, J Phys A (2017)
- Characterising knotting properties of polymers in nanochannels, Soft Matter (2018)
- Entanglement statistics of polymers in a lattice tube and unknotting of 4-plat, preprint (2021)
染色体のトポロジーの研究
染色体の立体構造の決定や、染色体が作る結び目の研究を行っている。 染色体のHi-Cデータから立体構造を構成する新しい方法を、distance geometryの議論を用いて行っている。
- in preparation
高分子化学とトポロジーの研究
多環状高分子のトポロジーについて、グラフ理論的観点、結び目理論的観点から研究を行っている。
- Topology of Polymers, Springer Briefs in the Mathematics of Materials (2019)