Salone

名著に親しもう。死者たちの言葉に耳を傾ければ、幸せになれるよ。

-Leonardo Da Vinci, パリ手稿I

 

このコーナーでは、環境発生進化学に関心を持つ方ににとっての必読書と思われる古典を、厳選してご紹介します。

Physiological Genetics by Rechard Goldschmidt (1939)

 「Hopeful Monster」の言葉で有名なRichard Goldschimidtが、当時まだ明らかになっていなかった「遺伝子」の正体に迫った本。PhenocopyやPenetranceなど、メンデルの遺伝学では説明がつかない現象を次々ととりあげ、遺伝子とは?突然変異とは?発生のパターニングとは?といった疑問に鋭い考察をし、生物の内部環境のみならず外部環境が、発生のパターニング、特に体色や羽の模様といったパターニングと切っても切れない関係があるということを述べています。進化に直接結び付けてはいませんが、進化との関連を思わせる例や、まだまだ現代の科学に照らし合わせた研究が必要と思われる事例もたくさん出てきます。半世紀以上前に、こんなことまで分かっていたのか、と目から鱗です。研究を始める前に、少し立ち止まって、この本を読んでみてはいかがでしょう。

 

The Strategy of the Genes, by Conrad Hal Waddington (1957)

著名な哲学者Whiteheadの名言「科学における偉業は、想像の飛躍(flight of imagination)にある」を、まさに具現化したような本。遺伝子がどのようにして発生を制御しているのかがまだよくわかっていなかった時代に、「システム」という概念をもたらし、「想像の飛躍」によって、環境、発生、進化をつなぎました。見えない世界を見える形にする、というのはこのことかと、何度読んでも感動します。システムの概念だけでなく、環境の影響がどのように進化と関係するかについても、それまでのラマルクの説とは全く別に、遺伝の問題を十分に考慮したgenetic assimilationという独自の仮説によって説明しています。しかし、これらのWaddingtonのアイディアは、まだ現代の科学で証明されていないものがほとんど。これから研究者を目指す方には、原文で是非読んでいただきたい一冊です。現代のシステムズバイオロジーの源流を作ったConrad Hal Waddingtonの名著です。

 

現代社会とストレス by Hans Selye (1978)

「ストレス学説」を提唱し、ノーベル賞候補者ともなったHans Selyeによる、ストレスから健康、社会生活、そして進化や寿命にいたるまで、えぐるような深い洞察が記された一冊。RNAワクチンの開発者の一人である、Katalin Karikó氏がバイブルと仰ぐ本「ストレスと生命」の作者が書いた本で、「ストレスと生命」よりも、科学的知見について詳しく、また幅広く書いてあります。この本に出てくる「Reacton」は、ストレスと寿命、進化をつなぐ、超分子的概念として描かれていますが、現在の科学ではまだ解明されていない、未来の研究になっていくのかもしれません。Hans Selyeの本は、どちらも息を呑むようなすばらしい洞察力で、心の奥底から感動します。「科学は一種の自己表現である」という言葉には、深く共感します。

 

このあとは、科学についてではありませんが、科学に通じる本。

ガウディの伝言 by 外尾悦郎 (2006)

この先どう進もうか、と真剣に悩む人たちに、無言でそっと手渡したい一冊。

ガウディーの意志を継いで、ガウディの死後130年にもわたり建築が続けられているサグラダ・ファミリアの設計や彫刻に、40年以上携わっている日本人彫刻家 外尾悦郎さんが書かれた一冊。ガウディの作品を通して垣間見る、人生に対する深い洞察には、一言一言深い共感を覚えました。読んでいるうちに、外尾さんと対話しているような、ガウディと対話しているような、それとも万物の根源の深いところからくる何かと対話しているような・・・だんだん分からなくなってきます。そもそもそれらには、もう境目はないのかも知れません。科学や研究者に通じる叡智が満載です。

次の言葉は、研究者としても肝に銘じたい、ガウディの言葉(どちらも「ガウディの伝言」より)。

「神は完成を急がない」

「人間は何も創造しない。ただ、発見するだけである。新しい作品のために自然の秩序を求める建築家は、神の創造に寄与する。ゆえに独創とは、創造の起源に還ることである」