研究内容

研究テーマ

物質は原子からできていることは常識となっていますが、自然界には物質ではないものも存在します。例えば、一番身近なものとして「光」があります。光は、固体・液体・気体という状態をとる物質とは異なる性質をもっている一方で、物質に吸収されたり物質から発生したりします。また、磁石の間にはたらく磁力のように離れた物質の間で力をやり取りするはたらきを持つものもあります。

自然界を構成する基本的な要素と、それらの振る舞いを支配する物理法則を解明して自然界で起こる全ての現象を統一的に理解することが素粒子物理学の目標です。「粒子」という言葉が付いていますが、単に物質をどんどん細かくするというものではなく、粒子や場という自然界に存在するあらゆるものの根源を探求することが目的です。

 

素粒子物理とLHC/ATLAS実験

上の図のように、原子は原子核と電子、原子核は陽子と中性子(まとめて核子と呼ぶ)、そして核子はクォークと呼ばれる粒子が組み合わさってできています。 陽子と陽子を衝突させると、衝突エネルギーが低いうちは荷電粒子同士がクーロン力による反発力によってある距離までしか近づけず散乱されます。衝突エネルギーを高くして、陽子間の最短距離が原子核の大きさ程度になると、陽子内部のクォーク間の散乱過程とみなせるようになります。クォークは電磁気力に加えて強い力も弱い力も作用するため、これらの相互作用の効果を調べることができます。相互作用の種類が増えることに加えて、高いエネルギーによって粒子・反粒子対の生成と消滅による多様な散乱過程が現れます。

スイス・ジュネーヴ郊外にある欧州原子核研究所(CERN)の大型ハドロン加速器(LHC)では陽子と陽子を陽子の静止エネルギーの1万倍以上の衝突エネルギー(13 TeV)で衝突させることで、様々な素粒子と相互作用の研究が可能です。私たちは、LHCの衝突点の一つに設定された大型の粒子測定器(ATLAS測定器)を使った実験に参加しています。 素粒子実験の特徴は、散乱後に生成される粒子を検出して素粒子反応を一つ一つの事象に分けて詳細に調べるということです。電流測定のように膨大な数の電子の流れによる物理量の測定ではなく、非常に小さい素粒子の反応を一つ一つ調べ散乱の素過程を分類すること、またそれを実現するための高性能の粒子検出器とデータ解析手法が実験の重要な要素です。

私たちの研究室では、TeVスケールという世界最高エネルギーおける素粒子現象の測定を通して、自然界の奥深くに存在するであろう、より基本的な要素を解明することを目指しています。素粒子の3つの相互作用による多様な散乱過程の測定と、2012年に発見されたヒッグス粒子に関連する新物理の探索をしています。また、シリコン飛跡検出器の性能評価とアップグレードに向けた研究開発も行っています。

半導体飛跡検出器

半導体粒子検出器はpn接合に逆バイアス電圧を掛けたもので、そこに荷電粒子が通過する際に結晶中の電子を励起させて電子・ホール対を生成することを利用したものです。荷電粒子による電離作用で生成した電子・ホール(電流キャリア)を集めることで微弱な電流として読み出すことが可能です。ピクセル検出器は微細加工技術によって、このようなセンサーをシリコン基板上に数10ミクロン間隔で形成することで高精度な位置検出器になります。そして、このようなセンサーを何層か配置することで3次元的に粒子の通過位置を記録することができ、そこから粒子の飛跡を再構成して運動量を測定できます。

ピクセル検出器の性能と放射線損傷による影響の評価

ATLAS実験で稼働中のピクセル検出器は大きさが50×400 um^2または50×250 um^2のピクセル電極を利用しています。2010年から行っている衝突実験によって衝突で生じた大量の粒子が検出器を通過するため、シリコン結晶の構造変化に伴う性能の変化をモニターすることが実験の遂行にとって重要です。電荷収集効率やローレンツ角の測定を通して、放射線損傷による影響を調べています。

ピクセル検出器の開発

LHCを高輝度化してより多くのデータを取得することを目指したアップグレード計画(High-Luminosity LHC計画)が進行中です。それに伴ってATLAS実験でもピクセル検出器をアップグレードするために、新しい検出器を開発しており、さらなる微細化と放射線耐性を向上させたセンサーと高速なデータ読み出しシステムが重要な開発要素となっています。私たちのグループでは、国内及び国外の大学・研究機関と共同で、検出器モジュールの製作と品質管理試験の準備を進めています。

ATLAS実験における物理解析

現在は博士課程の学生が中心となって、以下のような物理過程の測定と新物理の探索を行っています。

  • ベクトルボソン散乱過程の測定
  • レプトンフレーバー対称性の破れの探索