Research

当研究室では、有機化学と遺伝子工学・生化学・細胞生物学の手法を用いて、生命現象の分子レベルの理解を目指します。特に、ユニークな生物活性を持つ低分子化合物の探索、医薬化学的な最適化・構造活性相関研究、そしてそれら化合物をツールとして用いた作用機序の解析を行なっています。

研究室の方針として、自ら幅広い分野の技術を利用して研究を進めることを求めます。有機化学であれ生化学であれ、スペシャリストになることは大事ですが、異なる分野の「言葉」を理解できる人材も重要です。当研究室では、それぞれの分野の力を深めつつ、両分野の実験を自ら行うことで、分野をまたいで研究を理解し、調整できる人材の育成を目指します。

研究テーマ

より具体的な研究テーマの方向性として、下記のような研究を行なっています。

薬理学的シャペロン: タンパク質の折りたたみ異常を修正する低分子化合物

タンパク質はアミノ酸が連なったポリマーであり、適切な三次元構造をとることで、酵素や受容体といった機能を果たすことができるようになります。遺伝子の変異により、機能に必須なアミノ酸(例えば触媒残基)が変異により別のアミノ酸に変化したりすると、そのタンパク質の機能が失われ、疾患につながることは理解しやすいかと思います。一方で、遺伝子の変異は、タンパク質の機能そのものは直接的には損なわずにタンパク質の三次元構造の形成過程 (折りたたみ・フォールディング)に干渉したり、安定性を低下させる場合もあります。そのような変異は、遺伝性難病の原因となる場合があります。

そのような変異タンパク質のフォールディング異常は、その変異タンパク質に結合する低分子化合物により修正することが可能であり、そのような化合物は「薬理学的シャペロン (pharmacological chaperone)」あるいは「ケミカルシャペロン (chemical chaperone)」と呼ばれています。シャペロンとは、タンパク質のフォールディングを助ける機能を持つタンパク質のことであり、低分子化合物があたかもシャペロンかのように作用することからそのような名称が付けられています。ここ数年の間に、嚢胞性線維症やゴーシェ病など、一部の遺伝性疾患に対しては薬理学的シャペロンが薬として承認され、経口投与可能な治療薬として期待されています。理論上、フォールディング異常が起きている疾患には薬理学的シャペロンを作ることができる可能性がありますが、現在のところ薬理学的シャペロンが見つかっている疾患はごく一部です。当研究室では、化合物の合成から実験系の構築も含めた生物活性評価までをカバーする研究室として、薬理学的シャペロンの適用範囲の拡張を進めています。

タンパク質の安定化・不安定化を起こす低分子化合物

一般的な生物活性化合物は、酵素や受容体に結合し、その「機能」を阻害したり活性化することで調節する化合物です。一方で、標的のタンパク質に化合物が結合することで、そのタンパク質が安定化されたり、不安定化する (分解が起こる) 例が見つかっています。当研究室では、そのようなタンパク質の状態を変化させるような少し変わった生物活性に着目し、化学構造の変換による最適化、安定化・不安定化メカニズムの解析、応用といった観点で研究を行なっています。

オキシステロール誘導体の新しい生物活性

コレステロールは、生体膜を構成する脂質の一つですが、膜の構成という構造的な役割だけでなく、生体内で様々なタンパク質の機能や安定性を調節する生理活性脂質としての機能もあります。また、コレステロールが代謝(あるいは非酵素的に酸化)されて生じるオキシステロールにもまたコレステロールとは異なる役割が見つかってきています。当研究室では、コレステロール・オキシステロールの新しい生理作用・生物活性に興味を持っており、化合物の構造という側面からそれらの作用を理解することを目指しています。

特に、これまでに合成したオキシステロール誘導体のライブラリーや、誘導体の新たな合成を通して、どのような化学構造が興味対象の生物活性に必要なのかを調べ、より活性の高い化合物の探索や、作用機序を調べるためのツールとなる化合物のデザイン・合成・評価を行っています。