4. 花粉アレルゲンと糖鎖

スギ花粉症と糖鎖抗原

増加する花粉症は、ストレスや交通量との関係も示唆され、現代病のひとつといえるでしょう。日本の花粉アレルギーの中では、スギ花粉症の患者人口が最も多く、日本スギ( Cryptomeria japonica )から飛散する花粉の主要アレルゲンとして、すでに Cryj Ⅰ、 Cryj Ⅱが同定されています。このうち Cryj Ⅰは約6~8%の糖を含む糖タンパク質です。植物性のアレルゲンには糖タンパク質が多いことから、糖鎖がアレルギーの原因ではないかと、今でも世界中で疑われています。私達はまず、スギ花粉から Cryj Ⅰを精製し、その糖鎖構造を微量で解析しました。 Cryj Ⅰの主要糖鎖は、植物糖タンパク質に特有なコア構造と側鎖を含む2本鎖複合型糖鎖でした。
さて Cryj Ⅰをウサギに注射してつくらせたIgGは糖鎖を認識して結合することがELISA法でわかりました。このような抗体は、共通な糖鎖部分をもつ、他の多くの植物タンパク質とも交差反応します。ところがアレルギー患者の血清に含まれるIgEは Cryj Ⅰの糖鎖とは反応せず、 Cryj Ⅰの糖鎖は、アレルギー患者IgGの主なエピトープではないことがわかりました 1) 。これまでに糖鎖部分がIgEエピトープであることが示唆されたミツバチ毒ホスホリパーゼA2、オリーブ花粉アレルゲンなどと異なり、 Cryj ⅠではIgEの主要なエピトープは糖鎖ではなく、コンホメーション依存的なペプチドにあると考えられます。しかし他の 花粉症では少数の患者ですが、糖鎖と反応するIgEをもつ人もいることが報告されています。アレルゲン糖鎖の抗原性については、個人差の他に地域差や人種 差も考えられ、さらに多くのデータが必要だと考えられます。IgEが結合する糖鎖エピトープ構造、天然および食物アレルゲンにおける分布や、抗糖鎖抗体の 生じる機構も興味深いものです 2,3)

1) Ogawa H., et al., Glycoconj. J. , 13,555-566, (1996)
Structures and contribution to the antigenicity of oligosaccharides of Japanese cedar (Cryptomeria japonica) pollen allergen Cry j I: relationship between the structures and antigenic epitopes of plant N-linked complex-type glycans

2) Ueda H. and Ogawa H., Trends in Glycosci. Glycotechnol. , 11(62), 413-428, (1999)
Glycobiology of the Plant Glycoprotein Epitope: Structure, Immunogenicity and Allergenicity of Plant Glycotopes.

3) Ogawa H., et al., J. Appl. Glycosci. , 50, 327-331, (2003)
Characterization of Carbohydrate Epitope of Pollen and Wheat Allergens