1.シュードプロテオグリカン

糖鎖機能を解明して研究や医療に利用するため、糖鎖プローブを開発しています。シュードプロテオグリカン(シュード PG)は、天然のプロテオグリカンの分子構造を模倣して、直鎖高分子に複数のグリコサミノグリカン(GAG)鎖を共有結合させて、私達が創成した人工複合 体分子です。その新しい構造に基づき、ヘパリンを用いて調製したシュードPGはサイクロフィリンAなどのGAG結合タンパク質に対して単独のGAG鎖とは 異なる結合活性を示すことがわかりました 1)

私達はシュードPGの構造的特徴と顕著な結合特性に着眼 し、細胞膜上プロテオグリカンを必要とするHIV-1ウイル スの初期感染機構をブロックし、かつHIV-1に対する宿主の抵抗性を回復する効果を併せ持つ感染阻害剤としての利用を目指しています。天然のプロテオグ リカンをシミュレートした構造を持つシュードプロテオグリカンプローブの抗エイズ活性とその分子機構について、平成18~20年度には厚生科研費の支援を 受けて共同研究を行いました。

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その研究で私達は、さまざまな糖鎖を用いてシュードプロテオグリカンを合成しました。それらの抗HIV-1活性を調 べる中で、それ自体は全く活性を示さないデキストランや中性オリゴ糖鎖などの非硫酸化糖類と、アミノ基を複数持つ直鎖高分子を材料として用いてシュードプ ロテオグリカンを合成すると、極めて高い抗HIV-1活性が出現することを発見しました 2) 。ヘパリンやデキストラン硫酸などの硫酸化多糖が抗HIV-1活性を示すことは以前から知られていましたが、私達が合 成した非硫酸化糖類-アミノ基分子複合体は、種々の薬剤耐性ウイルスや、臨床分離株のウイルスに対しても、これまで知られている硫酸化多糖類以上の高活性 を示しました。また、材料が持っていた細胞に対する毒性は、複合体に合成することで著しく低減されることもわかりました。

この ようなシュードプロテオグリカンは、硫酸化多糖とは異なる作用機構でウイルス感染を阻害することが、私達と共同 研究者の実験からわかってきました。また、合成する材料の糖鎖や骨格分子を取り換えることによって構造や活性の異なるシュードプロテオグリカンを容易に合 成することができます。以上の研究内容については新聞に取り上げられ掲載されました 3)

日本ではエイズ 患者が先進国で唯一増加しています。さらに、HIVウイルスは変異が早く、薬剤耐性を獲得しやすいこ とから、エイズの効果的な治療のために、これまでとは異なるしくみで感染を阻害するような薬剤が強く望まれています。現在わたしたちはシュードプロテオグ リカンの抗HIV-1活性がどんなしくみで発揮されるのかを、詳しく研究しています。

 

1) Nakagawa K., et al., Glycoconj. J. , 26 , 1007-1017, (2009)
Pseudoproteoglycan (pseudoPG) probes that simulate PG macromolecular structure for screening and isolation of PG-binding proteins.
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2) Nakamura K., et al., Antiviral Res. , 10, 865-874, (2012)
Novel anti-HIV-1 activity produced by conjugating unsulfated dextran with polyl-lysine
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3)日刊工業新聞(2012年3月29日掲載)