研究内容

地球のすべての生命は、生産者である植物に依存しています。
植物の秘密を解き明かすことは、私たちの未来を考えることにもつながっていきます。
私たちは、陸上植物と微細藻類を対象とした研究を行っています。

(1)植物におけるプリンアルカロイド生合成系の解明

チャノキやコーヒーノキに含まれるカフェイン(1,3,7-トリメチルキサンチン)やテオブロミン(3,7-ジメチルキサンチン)はプリンアルカロイドとしてよく知られた植物の二次代謝産物である。チャノキやコーヒーノキでは、カフェインは微量成分ではなく乾燥重量の2〜3%と高濃度に蓄積されている。プリンアルカロイドを含む植物としては、チャノキ(Camellia sinensis)、コーヒーノキ(Coffea arabica)、マテ(Ilex paraguariensis)、コーラ(Cola nitida)、カカオ(Thebroma cacao)、ガラナ(Paullinia cupana)が有名である。このようにプリンアルカロイドを含む植物種は特定の分類群に偏らず、ツバキ科のチャノキ、アカネ科のコーヒーノキ、アオギリ科のカカオというように系統分類学上、ピンポイントに存在している点が非常に興味深い。

カフェイン生合成経路を図に示す。カフェインはプリン環をもつキサントシンから3回のメチル化を経て合成される。プリン環がメチル化される順番は決まっていて、N-7位、N-3位、N-1位の順である。当研究室では、N-3位とN-1位をメチル化するカフェインシンターゼとその遺伝子をチャノキから世界で初めて単離した。カフェインシンターゼ遺伝子の構造から、カフェイン合成能は、チャノキやコーヒーノキなどのプリンアルカロイド含有植物において、独立に獲得されたことがわかった。

このカフェインシンターゼ遺伝子を軸に、カフェインシンターゼの分子進化、プリンアルカロイド生合成の制御機構、カフェインの細胞内輸送メカニズム、昆虫の食害によるプリンアルカロイド生合成への影響などの二次代謝ワールドの研究を展開している。
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(2)微細藻類の脂質代謝

炭化水素やトリアシルグリセロールを蓄積する微細藻類を用いて、これらの中性脂質の生合成系と関連遺伝子の発現を解析している。主な研究材料として、バイオ燃料の分離源として注目されているトレボキシア藻綱のBotryococcus brauniiPseudochoricystis ellipsoideaを用いている。

微細藻類には種子植物には含まれないエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などの高度不飽和脂肪酸を含有する種が多い。高度不飽和脂肪酸は極性脂質のアシル基として存在する。微細藻類を用いた高度不飽和脂肪酸の生産技術開発を目的として、高度不飽和脂肪酸の藻類における分布、高度不飽和脂肪酸をアシル基として結合しているベタイン脂質の生合成系の解析、高度不飽和脂肪酸生合成の環境応答機構などの研究を行っている。

赤が葉緑体自家蛍光 黄色が油滴

赤が葉緑体自家蛍光 黄色が油滴

(3)バイオ燃料を生産する微細藻類の環境影響評価

バイオ燃料を生産する微細藻類を屋外開放系で培養した場合、周辺環境への流出が想定される。流出した当該藻類が周辺環境に及ぼす影響を、生残性調査や動植物への影響を中心に調べている。微細藻類の環境影響評価に関する確立された指標はなく、本研究では環境影響評価のモデル実験系の構築から取り組んでいる。