研究テーマ
磁性と誘電性が関係するマルチフェロイックス、幾何学的フラストレーション系磁性体や低次元磁性体、トポロジカル磁性体等の研究を試料作製・基礎物性測定・中性子散乱実験を組み合わせて行っています。
学生の研究テーマは個々の希望を考慮して決定しますが、大学院生は何度か中性子散乱実験を行う予定のため、国内外の中性子実験施設に行き、様々な研究者・技術者との議論・交流の場を持つことになります。
マルチフェロイックス
研究テーマのひとつとして、磁性と誘電性の新奇関係に注目する。通常は磁場によって磁性、電場によって誘電性を制御するが、電気と磁気の交差相関が、近年精力的に研究されている。電場印加による磁性の変化、磁場印加による誘電性の変化といった電気磁気効果は、基礎・応用両面において重要な研究テーマとなっている。
代表的なものとして、横滑り螺旋磁気構造などの特異な磁気構造をもつ相への転移と同時に、強誘電相への転移を示すマルチフェロイック物質(強磁性+強誘電性)が挙げられる。これまでの研究により,多くのマルチフェロイック物質はスパイラル磁気構造などの特異な磁気構造を起源とする強誘電性を持つ事が明らかになった。この方向での物質開発が進められている一方で、新たな磁性と誘電性の関係を探索することも重要である。本研究テーマでは、様々な物質における新たな磁性・誘電性の関係を探索する。
電気磁気効果の例
典型的なマルチフェロイック物質では、サイクロイダル磁気構造の右巻き・左巻きによって強誘電性の方向も変化する。
Ba2CoGe2O7では、電場を印加することで局所的なスピン方向を直接的に制御できる。
磁性と誘電性の関係に注目した研究例
(1) マルチフェロイックスにおける室温電気磁気効果
室温電気磁気効果が報告されているヘキサフェライトに対する粉末中性子回折実験を幅広い温度・磁場領域で行い、室温電気磁気効果の起源を明らかにした。
(2)プロパースクリュー磁気構造におけるマルチフェロイックス
サイクロイダル磁気構造でなくプロパースクリュー磁気構造をもつマルチフェロイック物質CuCrO2の起源を明らかにした。
(3) スピン・ネマティック相互作用起源の磁気異方性
スピン・ネマティック相互作用によって決まる磁気異方性を発見し、スピン・ネマティックエネルギーと電気分極の静電エネルギーを定量的に見積もることに成功した。
(4) 磁性イオンを持つリラクサー誘電体
磁性イオンを持つリラクサー誘電体に注目し、polar-nano-regionを起源とする新奇な超常磁性を発見した。
新奇磁気相の探索
新奇磁性相の探索を目的とし、幾何学的フラストレーション系磁性体や低次元磁性体、トポロジカル磁性体の研究も行っている。主たる実験手法の中性子散乱では、物質の磁性を直接測定する手段としてとても有効であり、マグノン等のスピンダイナミクスを観測することもできる。 スピンの構造・エネルギー情報をS(Q,w) として観測可能な中性子散乱を用いることで様々な磁性体のミクロ物性を解明していく。
様々な幾何学的フラストレーション構造の例。三角形上に反強磁性(スピンを反平行にする)相互作用を考えると基底状態は定まらない。三角形のネットワークをもつ結晶構造は様々あり、これらの構造をもつ磁性体では、興味深い磁気相が期待される。