宇宙マイクロ波背景放射
宇宙は138億年前に「ビッグバン」と呼ばれる大爆発から始まりました。そのとき放たれた光は今も私たちに届いています。これが「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」と呼ばれるもので、初期の宇宙の情報を今に伝える貴重な手がかりです。CMBの偏光パターンを詳しく調べることで宇宙の根源的な性質に迫ることができます。たとえば、私たちに利き手があるように、宇宙にも“左右の違い”があるのでしょうか? 藤田研では、CMBに現れるかもしれない「左右の非対称性」に注目し、理論的な研究を進めています。もしその兆候が観測されれば、これまでの標準的枠組みを超える新しい物理の発見に繋がるかもしれません。
量子重力検証
量子力学は、電子や光子のような微小な世界を正確に記述する理論です。しかし「重力」だけは量子の性質をもつかどうか長年の謎になっています。もし重力が本当に量子的に振る舞うのであれば、二つの物体を重力で結びつけたときに「エンタングルメント(量子もつれ)」が生じます。藤田研では、この重力による量子もつれを理論的に検証し、さらに実証するための実験提案を行う研究をしています。「重力も量子的に扱える」という仮説が確かめられれば、物理学の根幹である相対性理論と量子力学をつなぐ大きな手がかりになるはずです。
地震波データ解析
重力は目には見えない力です。私達は地球の重力のおかげで宇宙に投げ出されずに暮らしていますが、それを意識はしていません。しかし、宇宙では重力によるダイナミックな現象が数多く起きています。たとえば、巨大な天体同士が衝突すると、「重力波」と呼ばれる時空のさざ波が発生します。日本では、この重力波を観測するためにKAGRAという大型の観測装置が運用されており、重力波を使った新たな天文学が始まっています。しかしKAGRAは、地震などによる揺れの影響で「ロックロス」と呼ばれる観測停止状態にしばしば陥っており、その発生頻度を下げることが重要な課題です。藤田研では地震波データの解析を通じて、将来的なロックロスの発生を未然に防ぐためのシステム構築を目指しています。重力波天文学を陰で支えながら、“地球の揺れ”にも挑む研究です。
宇宙生物学
私たち人類は、地球以外にも生命が存在するのかという問いに長らく魅せられてきました。この壮大な謎に挑むのが「宇宙生物学」です。宇宙生物学では、生命の起源・進化・存在可能性を宇宙全体の中で探ります。たとえば、地球生命の材料となった有機分子は、宇宙空間でどのように生成されたのでしょうか? 隕石や彗星に含まれる物質の分析や、星間分子雲の観測、さらには生命に適した環境(ハビタブルゾーン)を持つ系外惑星の探査など、あらゆる視点から宇宙における生命の手がかりを追います。藤田研では、初期地球環境を理論的に再現しながら、宇宙における生命の普遍性を探る研究をする予定です。もし生命の起源となる化学反応が宇宙全体で普遍的に起きていたとしたら、私たちは決して孤独な存在ではないのかもしれません。
原始重力波
我々の宇宙はビッグバンという熱い火の玉から始まったという話を聞いたことがあるかもしれません。近年はビックバンについては色々分かってきたので、研究の最前線は「ビッグバンの前には何があったのか?」に移っています。極初期の宇宙では、宇宙の膨張が加速するインフレーションが起きて、星や人間などの構造の”タネ”が生まれたと考えられています。インフレーションを観測で検証したいのですが、火の玉より昔の宇宙は光では観測することができません。そこで現在注目されているのが、宇宙の始まりから飛んでくる重力の波、原始重力波です。藤田研ではこの原始重力波を手がかりに、宇宙創生の謎に迫る研究を行っています。