Research


研究内容

高等植物の特徴の一つに多様な二次代謝の存在が挙げられます。私たちは、この二次代謝を指標として、植物の環境や分化に応答した遺伝子発現の制御機構、さらには植物の進化を遺伝子レベルで解析するという研究を行っています。
花の色を初めとする植物色素は、代表的な二次代謝産物の一つです。植物色素は、紫外線や温度(低温による紅葉の誘導)により生合成系の遺伝子群が誘導さ れ、合成が促進されることから、植物の環境応答の有効なモデル系として捉えることができます。また、深紅の花でも色素が合成・蓄積されるのは表皮の細胞一 層のみで、内部は白色であることから(リンゴやサツマイモの切り口と一緒です。)、色素合成は分化の指標として優れています。
こういった、環境や分化に応答した二次代謝系遺伝子の発現の背景には、複雑かつ正確な転写ネットワークの存在が予測されます。さらに、花の色は受粉を助け る昆虫や種を運ぶ鳥たちと共に進化してきたといわれており、花色の合成系の遺伝子解析により、植物の進化をうかがい知ることができます。このように、私た ちの研究は、生物学のきわめて基礎的な部分に着目したものですが、見方を少し変えると、有用物質を多く含む植物や、新しい花色をもつ植物の創出といった、 植物バイオテクノロジーの基盤技術でもあります。




植物遺伝子の多重性と転写ネットワークに関する研究

植物ゲノムの特徴の一つとして、遺伝子の多重性が挙げられる。マメ科植物ではフラボノイド合成に関与する酵素群は多重遺伝子族を形成しており、その背景には種々の要因に応答する複雑な転写制御ネットワークの存在が推察される。
近年、種々の植物において、フラボノイド合成に関与する転写調節因子(MYB、bHLH、WD40タンパク質)が単離され、特性解析がなされている。当研 究室では、これまでにマメ科モデル植物であるミヤコグサより、プロアントシアニジン合成に関与するとされるシロイヌナズナのMYB型転写因子TT2のホモ ログLjTT2-1、-2、-3を単離し、これらがゲノム上でタンデムに配列し多重遺伝子族を形成することを見出した。
3つのLjTT2はすべて、TT2と同様にシロイヌナズナのBANYULS (BAN)、dihydroflavonol 4-reductase (DFR) のプロモーターを活性化するものの、器官の違いやストレスの負荷に応じた発現パターン、TT8、TTG1との相互作用において三者の間で違いが見られることから3つのLjTT2はそれぞれ機能分化している可能性が示めされた。
現在、これらの転写調節因子間の相互作用の解析を中心に、動くことができない植物の生存戦略において、その基幹をなす転写制御ネットワークの解明を目指して研究を進めている。




植物色素を指標とした分子進化の研究

高等植物の花色、紅葉などの赤色は、多くの場合アントシアニンがその発色源となっているのに対し、ナデシコ科、ザクロソウ科を除くナデシコ目植物の 赤色はベタシアニンによって発色されている。さらにアントシアニンとベタシアニンが同一種に共存する例は報告されておらず、植物界における両者の分布は互 いに排他的である。
植物の化学分類においては、二次代謝産物が有効な形質の一つとして古くより用いられてきたが、その場合問題となるのは、基本骨格の水 酸化、配糖化、アシル化といった修飾パターンの多様性である。これに対し、ナデシコ目と他の植物の間で見られるような、アントシアニン、ベタシアニンと いった基本骨格自体の存在の有無がはっきりとしている例は珍しく、この事実に対する「なぜ?」は古くからの問題であった。
近年、アントシアニン、ベタシアニンに関しては、生理・生化学、分子生物学的側面からの研究が極めて活発に行われており、特にアントシアニンをはじめとす るフラボノイドの発現制御機構は最も研究が進んでいる分野の一つである。そこで本研究室では、こういった現状をふまえ「ナデシコ目はなぜアントシアニンを 作らないのか」という問題にたいして、遺伝子レベルからのアプローチを試みている。
ナデシコ目の植物では、アントシアニンは存在しないものの、これと生合成上近縁なフラボン、フラボノール等のフラボノイド化合物は豊富に存在する。この事 実は、ナデシコ目ではアントシアニン合成に特異的な生合成ステップが欠落していることを示している。そこでそのステップを触媒するDFR、ANSの両酵素 に注目し、解析を行ってきた。その結果、ナデシコ目においても両酵素の遺伝子(DFR、ANS)が存在し、両者ともに機能を保持していることがin vitro、in vivoにおいて明らかとなった。ナデシコ目植物では、DFR、ANSは種子のみに特異的に発現しており、これらは種子におけるプロアントシアニジン合成 に寄与しているものと思われる。このことから、ナデシコ目植物にアントシアニンが存在しないのはDFR、ANSの発現制御に起因したものと考えることがで き、現在、DFR、ANSの転写制御に注目して解析を進めている。