研究内容

(1)小脳顆粒前駆細胞の増殖分化・突起形成における細胞外マトリックス分子の役割

小脳形成は、マウスの場合出産後に行われる。小脳では主に2種の神経細胞(顆粒細胞、プルキンエ細胞)から形成される。小脳形成時において、まず、増殖能を有する小脳顆粒前駆細胞からなる外顆粒層において、細胞周期を脱して、初期分化状態に入り、分子層において軸索が形成・伸長され、プルキンエ細胞と神経回路を形成していく。この過程において層が形成されるためには、小脳顆粒前駆細胞の増殖、分化、突起形成が、時間的、空間的に精緻に制御されている必要がある。国内外の研究により、その分子レベルでのしくみに細胞内外の様々な因子が関与していることが示されてきているが、その理解は未だに十分ではない。

宮本研究室では、発生期の小脳において発現が一過性に見られる細胞外マトリックス分子の一つビトロネクチンを始めとした細胞外マトリックスや細胞接着分子に着目し、小脳顆粒前駆細胞の増殖、分化、突起形成に及ぼす寄与を明らかにすることを進めてきている。

ビトロネクチンが、小脳顆粒前駆細胞の初期分化を促進させることを見出した

宮本研究室では、ビトロネクチン-ノックアウトマウスを用い、小脳形成時(生後2日目から14日目)の組織切片を作成し、ビトロネクチンの小脳形成への影響について解析を行った。初期分化段階へのビトロネクチン欠損の影響を初期分化マーカーTAG1を用いて解析したところ、ビトロネクチン欠損により小脳顆粒前駆細胞の初期分化段階の細胞数の増大が観察された。この現象が小脳顆粒前駆細胞の初代培養系においても観察された。これらの結果からビトロネクチン が小脳顆粒前駆細胞の初期分化の進行を促進させることが示された(Hashimoto et al., 2016)。


(2)大脳損傷修復における細胞外マトリックス分子の役割

交通事故やスポーツ事故などで脳に生じる外傷性脳損傷は、直接的には物理的な損傷であり、その治療としては、まず頭がい骨骨折や出血に対する外科的な治療が主要な処置である。しかし、外傷性脳損傷患者にとって大きな問題は、その後に 生じる後遺症である。後遺症として、注意力低下、遂行機能障害、脱抑制症状など高次機能の傷害が見られ、生活の質(Quality of Life, QOL)の低下がおこる。この後遺症には、外傷性脳損傷の一次的な損傷(物理的な損傷)より、二次的な損傷が強く影響しており、その影響とは、損傷部位で起こる炎症に由来する。 炎症が周囲の神経細胞の変性による神経細胞死を引き起こす。この二次的な損傷をいかに抑えるかが、後遺症の改善に大きく関わってくる。しかし、この二次的な損傷を抑える有効な治療薬はいまだ開発されていない。

宮本研究室では、マウスの大脳皮質に対して、注射針を用いた穿刺傷害を与え、その脳損傷修復に対するビトロネクチンを始めとした細胞外マトリックス分子の役割を解析している。ビトロネクチン欠損マウスにおいて、線溶系促進による出血の促進が観察されており、ビトロネクチンの出血抑制効果が示唆されている。また、ビトロネクチンの血液脳関門の修復への寄与が示唆されている。

右脳大脳皮質に穿刺傷害(濃い茶色の部位が損傷部位)


(3)環状ホスファチジン酸の大脳損傷修復における役割

外傷性脳損傷の二次的な損傷を抑える物質として、リゾリン脂質の一つである環状ホスファチジン酸(cyclic phosphatidic acid; cPA)に宮本研究室では、期待している。cPA は室伏きみ子先生が発見された生体内に存在する生理活性脂質であり、哺乳類では血清、 脳組織に豊富に存在し、sn -2と sn -3に環状構造を持つ。共同研究者の室伏先生、後藤先生らのグループは、cPA はマウスの多発性 硬化症モデルにおいて脱髄、アストログリア増殖症、ミクログリア活性、運動機能障害を抑制すると報告されている。このことは、cPA は炎症を抑制し、神経を保護することを示唆している。そこで、cPAのマウス脳穿刺傷害の修復過程に対するcPAの影響を解析している。

環状ホスファチジン酸(cPA)の分子構造